これまでの短歌

内田康夫の作品
内田康夫の落款
早坂真紀の作品
早坂真紀の落款

春

2018年4月2日

  • 春眠は 暁だけとは 限らぬと 言い訳しつつ 昼寝とろとろ
  • 目覚めれば あけぼの色に 染まり行く 窓の向こうに 鳥のさえずり
  • なりゆきで 書いてみせると 豪語した 『死者の木霊』が ボクの原点
  • ありがとう 感謝してると つぶやけど 妻に届くか 白みゆく空
  • いまここで 眠ってしまえば 永遠に 目覚めぬ気がして 睡魔と闘う
  • 立春を 過ぎて今なお 寒かりき 右手でふとんを 搔きあげてみる
  • 車椅子 止めてしばらく 陽だまりに 来し方おもい 行く末おもう
  • 握られた 動かぬ腕に 伝わりし じわりじわりと 妻の温もり
  • 永遠と いう名の国に 旅立つ日 妻とふたりで 何を語るか
  • 静けさが 耐えられなくて 独り言 寂しさ増して 天井にらみぬ
  • 上弦の 白月浮かぶ 冬の夜は チェロなど聞いて 妻の名を呼ぶ
  • ふりむくな ボクはまもなく 旅にでる 前見て歩け 頼むぞ妻よ
  • わが妻の 笑顔のなんと 暖かき われが逝きても 笑顔絶やすな
  • 新しき 道を尋ねる 旅立ちの こころ残りは 妻と『孤道』と
  • 美しく 豊かな語彙は どこに消えた 言葉をさがして 焦れてる夫
  • 思い出は あれやこれやと 重なりて 愚かな若さ 懐かしくもあり
  • 枯れ葉追う 風をさがして 陽だまりに 目を細めたる 子犬がひとり
  • 寒つばき 血潮のごとき 花一輪 落ちて色褪せ 大地に溶ける
  • 「さびしいね」 夫のひとこと 身に沁みて 窓をあければ 枯れ葉の匂い
  • 一瞬の ただ一瞬の 出来事が つながり続いて いまの夫と妻
  • 歌人より 佳人になりたく 朝夕に 乳液すりこむ 無駄と知りつつ
  • 「ふりむくな!」 いまだ現実(うつつ)を 受け入れぬ 我を叱りて 空をにらむ
  • 柔らかき 日差しに春の はじけたか 大地をやぶり クロッカスの芽
  • レンギョウを あれはヤマブキと 言い張って そのまま逝くか 夫の笑顔よ
  • わが夫の いのち消えゆく 春未(まだ)き コブシは咲くや あるじなくとも
  • 風吹けば 春かも知れぬ わが森を 薄き緑の ベールで包みぬ
  • 覚悟など かひなき事と 知りながら 覚悟を決めた 早春の朝

2018年3月15日

  • 川原(かわはら)で クレソンを摘む 妻見つけ 身を乗り出した 湯川の欄干
  • いつの日か 終わる生命(いのち)の いとしくて 耳かたむける ケッヘル467
  • 雪やんで 月の光の 樹の影は 狐狸の類か 畏れて鳥肌
  • シジュウカラ ふくれて寄り添う 枝先に なお冷たくも 北風の吹く
  • 若き日の 愛の記憶は アニマート 時過ぎゆきて 今はモデラート
  • 雪とけて 去年(こぞ)の落ち葉の 現れて カビの匂いに 春の声聞く

2018年3月1日

  • 枯れ芝に 身を横たえて シマミミズ 陽に干からびた 生命(いのち)哀しも
  • 薄れゆく 記憶を留めんと 目を閉じて 著作(ほん)のタイトル 音読しおり
  • サザンカの 咲きたる道に 今はなき 焚き火の煙 しもやけの手
  • 口紅に あぶら浮きたる 跡ありて 『おんな』を忘れし 月日(とき)の長さよ
  • 指先に 息吹きかけて バス待てば スズメ来たりて 気持ちは春
  • 生まれ死に 生まれ死にして 何億年 いのちつなぎて これから何億?

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冬

2018年2月15日

  • 朝焼けが 妻の笑顔を 赤く染む 西風吹いて あしたは雨か
  • 風強く 妻の歌声 背に聞けど 泣いているのか とぎれとぎれに
  • 助手席に 妻座らせて 下り坂 ブレーキ踏みし 夢の切なく
  • 朝焼けが ロマンティックと 振り向けば 夫の笑顔に 少年の瞳(め)
  • 割り箸の 途中で折れて そのままに カップラーメン 独りすすりぬ
  • 芝庭に 刈り残されし タンポポの 綿毛飛び行く 冬晴れの朝

2018年2月01日

  • 雲切れて 月の光が 突然に われに届きて 迎え来たかと
  • 健気にも 椿の根元に 霜柱 間もなく終わる 生命と知らず
  • 雪明かり 頼りに文読む いにしえの 人の視力に 驚かれぬる
  • 引き出しの 奥に見つけし 口紅を 小指でさして つかの間の艶
  • これ以上 なきほど溜まりし ストレスを 夫は知るや 穏やかな寝息
  • スカートの 裾丈詰める われの背を 抱きしめ夫は 何も語らず

2018年1月15日

  • 「よろしく」と 頭下げれば 胸熱く 今年も妻の 手を借る一年
  • 蜘蛛の巣に 枯れ葉のゆれて 冬日差し 季(とき)穏やかに 漂い行けと
  • 足がつり ケイレンという字 「あれあれ?」と 形浮かべど 漢字は書けず
  • 黒々と そびえるビルを 茜(あか)く染め 初日は昇る 今日から新年
  • 仰向けば くちびるに溶けし 風花よ その冷たさに 熱き想いが
  • 車椅子 段差を上がる 手の力 雪掻くときの 重さにも似て

2018年1月05日

  • 地を這いて 動きを止めし モンキチョウの 生命(いのち)見つめし 初霜の朝
  • 車椅子 早押しで行く 朝の道 頬切る風に 「生」のよろこび
  • 紅白の 終わりて鐘に 耳澄まし 心静かに 『今』を見つめぬ
  • 一つでは 申し訳ないと 二つ買う ショートケーキに 寂しさ三倍
  • 走り去る 車の残せし つむじ風 落ち葉巻き上げ 日差し穏やか
  • あふれくる 想いにきつく 紐をかけ 鐘と流そう 明日から新年

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